29期生は,ほとんどの者が自分たちの英語の成績が年間を通して全国トップであったことを知っていると思っていたのだが,中には気付いていない者もいたようである。そして,このことに触れると大きな拍手が起こった。「英語のおかげで大学にパスしました。」と言ってくれるのがとてもありがたかった。もちろん,実際は他の教科もできていたから合格できたのであるが,厳しく鍛えた生徒たちからそのようなことを思い出として語ってもらえるのは大きな誇りである。中にはわたしが丹精を尽くして作成した「CHUTA BOOK」を持参してくれた者も数名いた。どのページを開いても一目で学習の痕跡が見て取れる記入があった。この「CHUTA BOOK」を自分の子供に見せて,父親の勉学の証拠を示すのだと言っていた。
下宿訪問については,体温計の温度を上げようとして,脇に挟んでこすった生徒がおり,40度くらいまで上がってしまったという話をした。すると,同窓生の間から,「それは○○君だ」という声がした。その通りであったので名前を挙げて話を続けたところ,会場は笑いの渦に巻き込まれた。
よく考えてみると,車で下宿周りができたのは,そのようなやる気を起こさせてくれた生徒のおかげだったのではないか。自分の持てる最大の力を学習指導と生活指導に向かわせてくれる魅力を生徒たちが持っていたのであろう。このような生徒たちと巡り合えたことは,わたしの人生の最高の幸せであり,この29期生に感謝をせねばならないと改めて気づいた一日であった。
翌日の午後,同窓会に参加した100人の内,およそ50名が学校に集まり,和田隆一教諭の国語,平岡道雄教諭の数学,そしてわたしの英語の模擬授業を受けた。30分の授業を2回繰り返す形の模擬授業である。わたしは中学1年生用に作成した「CHUTA BOOK」の中から,英作文の問題をプリントにして配布し,一人ひとり指名して解答を求める形で授業を行った。もとD組の生徒たちを指名する際に,きちんと名前を呼ぶことができたのには,われながら驚いた。
立派になった社会人を前に中学1年生の英語というのは,失礼な話だと思ったが,リズムで覚える英語に挑戦してもらった。29期卒業生がわたしの授業にどのような感想を持ったかは分からない。しかし,25年前に学習した教室で英語をリピートする彼らの姿は生き生きとし,楽しそうであった。
今年からNHKの基礎英語1でも,英文をリズムに乗せて練習するコーナーができた。わたしは本校の52期生が中1のとき,つまり8年前から「お子様用キーボード」のリズムを利用して英文をリピートする方法を導入した。英語の考査時間中に,リズムで英語が頭に浮かんでくると言った生徒がいたので,キーボードを用いた授業が無駄ではなかったと,新たな挑戦に手ごたえを感じたものだ。
教育の世界にも,change と challenge(変革と挑戦)が必要不可欠である。前年と同じことを繰り返すのであれば,さほど教育は難しいことではない。しかし,それでは何の進歩もないし,教師としての充実感もないであろう。今日の自分は昨日の自分であってはならないのである。新たな自分を求めてチャレンジするからこそ,教師としての人生が楽しいのではあるまいか。チャレンジ精神がなくなったとき,それは教師としての資格を失った時であると常々自分に言い聞かせている。